「記憶、独白、置手紙」

あてさきは君

散っていく、散っていく。 花のように 君が、君を 忘れる前に ただ、君のことをふと想い出して ただ息を吸っては また息を出してた まだ瞼の奥には君がいるのに けど視えてるだけで もう触れないようだ 綺麗なままの昨日にも もういいのに、もうないのに縋っている 花咲くような 君のような ただあの日見惚れたままに 君の顔は雪のようで けど、胸はまだ痛いままで まだ、あてさきに君がいる また胸の奥に君を浮かべた 残っているのはただ 未練か、妥協か もう瞳を閉じても ただ景色は霞んで また記憶の隅から ただ君を捜した 自分も、人も、醜さも 忘れるほど、焦がれるほど 君だった その声ごと 記憶まるごと ただ君だけ笑うように 君のくちは星のようで ただ、"それ"だけ思い出せない 君の名前は解るのに 君の姿だけ疾うに見えない 形骸みたいな記憶だけ まだ残っている 「愛しい」だけで言えるかよ 「切ない」だけで言えるかよ 「美しい」だけで言えないや ただ、それだけだ 大切な ことだって わからないような きみに 幸あれと 祈ってるような わすれてく ことだって 多いのに。ねぇ さいごにね きみのことを 思い出して──── 君の影を 追っているように ただ輪郭が消えないまま 悔いも何も 夏に欠いて 想い出せぬまま「それ」を呑んだ ただ、あてさきも霞むまま

「空白、雑踏、一周忌」

きみの姿で息をしたんだ

ゆきの散らついた皓さのように おわる夏の陽が白く刺さった 甚く痛いように脆いばかりで おそい呼吸すら、すこしはやいね。 ただの自分さえ憎んじゃうほど 喩え噺にも縋ってしまう たかがこの世界のこの命の 重さばかりを縛り付けては 空気があるほど、息苦しいから このまま視界のきっとぜんぶが 白く染まって消えていくのなら こころも あなたも 記憶も すべて 知らない何処かで 微笑えばいいのに。 いつかも 何かも、 この目も 似姿も 褪せてく夏の日射しのようで 言葉も 命も、 あなたも こころも ただ、このまま これから世界が巡り続けて 唯々綺麗に白んでくから 君の寝姿も息の白さも 正しさなんかで救えないんだろ このまま 呼吸も止まったままで 全てがいつかを追い越してくから そのままいっそね。息のすべてを 棄てれば 消せたら それならいいのに このまま このまま

投石刑

渇いた心はひび割れて 雨すら厭愛おしいほど傷んでた 「誰でもいい」と、そう思うので 言葉に出すのもできない 綺麗なことも癒言えないので きっとそう、頷いてくれない 正しいことだけ言えたら ただ、そう「大切にして」もらえた? * 埋まらないことなんてそうきっと 裡の裡には抱えてんだからみんな 言っても詮無い 此れはそう焼印 一人でも誰かに頷いてほしいん── だから いつだって いつだって 正しさを掲げながら いつだっていつだって ただ他人を灼いてたかった 僕らいつだって、いつだって 埋まらないことばかりで ああ、そこにいる そこで見る 歪みばかり観えてたんだ 傾いだ声はいつだって 混ざって色と崩れてく 忘れた ただ忘れたい自分ごと どれもが 自分のものなのに 解ってんだ 鏡を見るよう 抉るのは、そう。自分だから * 負け犬も勝ち馬も どうでもよかった 「誰でもよかった」 それすらも近いさ 探せば見つかる焼印 不正義 裁きはみんなで演るのがそう正義 僕ら ぼくら そうやって、そうやって ただ何か掲げながら いつだっていつだって ただ息をしてたかった だから いつだって いつだって 掲げたものもわからずに 嗚呼、そうやって そうやって 満ちていく 憤怒りだけ - あぁいつだって いつだって - ねぇそうだっけ そうだっけ?

キャンセリング

いつかの夜過ぎ去った景色が 今ではもう色褪せたままで 綺麗なこと一つと遺さず 積もる埃に喉が詰まった 息をすれば、貴方すらもひどく醜くて 見えてるものの全てが褪せていく 貴方のことの全てを 忘れて仕舞えばいいと 記憶も何も黙って投げ棄てていて 心の奥にのこした さよならの悼みも 消し去って この夜全て幻の様で 過ぎた夜を貴方と呼んでる 朝の色も罪も過ちも 痛むほどに赦せないままに 貴方の嘘で満たした 願いを見あげた 全部言葉の綾で黙って見逃していて いつかの記憶も罪も 錯誤も嘘も 「消してしまえばいい」 夏の隅も 貴方の目も 嘘も失望も 戻らないことの凡てを消せばいい 消えてよ ぜんぶ想い出も ぜんぶ記憶も 貴方の言葉のすべて黙って頷いていて? さよならも 君の全てを失くせばいいから 憶えてる。

雨と吐息、過呼吸

息を吸って、吸って 吐いて 雨樋に溜まる水の粒が 言葉すらも消して、消して この心すらも よごす ただ ─────── 雫一つ落ちて、落ちて 溺れていくほど 息が詰まる ひとつひとつきみを、欠いて 心の寄る辺も 消して 痛みも 過ちも 優しさも 記憶も、 全部忘れるままに ─────── もうなんでもいいよ 君以外、全部 あたしも誰も 生きてたら皆んな、醜いのにね ─────── 胸に空いた穴のように きみの影を呑み込んでいる この穴はきみの形象だから 水が 溜まっても 澱んでも 消えないで

残夏、きみの姿を水に流して

朝、目が覚める。 指先をさぐる。 水に浮かぶよう まだ、寝惚けたまま もう目も覚めて 指先が寒い 水に沈むよう ただ、きみがいない 街並みも、人波も 灰色に溶けて きみの居ない この心なんて なんの意味も在るわけ無いだろ きみの声のきこえない街は すべて全部 色を失くしてた。 きみの言葉が水に浮かんでいる 溶けて流れて、消えないままで きみの居ない街は誰も彼もすべて 綺麗詞すらもきたなく思えた 心まるごと水に流して 無くなる前に 胸の奥の思い出をさぐったまま きみは僕を綺麗と言うけど 僕にとってはきみが眩しいんだよ 僕も全部、厭に為るほどに きみの声が脳を反射する 逃げ出すように心を亡くして それでいいよ もうそれでいいよ きみも全部、往ってしまうのなら この世全部醜くていいよ この心を水に流せるなら 夜のおくへ流してほしいよ 溺れるまま きみを呼んだまま 逃げ場所さえ朝に解けたまま。

「追慕、夕立、二周忌」

あなたの亡霊

木漏れ日が揺れる 一呼吸、刹那 二人のことさえ忘れるほどに 三歩ぶん歩む 貴方を想い出す 何度目の夏かすら忘れた 悲しいだけの想い出が 切ないだけの思い入れが 苦しいだけの重たさが 胸を、鬱ぐから 貴方のことをいまでも憶えてる あたしはあなたの亡霊でしょうか 後悔と嘘を 何度重ねても あの夏の奥にまだ 貴方が居るんだ 忘れたいことが日毎に増えていく 貴方のことさえ厭になったから 嘘ついた、ごめん あなたの言葉を否定するのが いやなだけだ 口惜しいだけの諦めが 愛しいだけの 虚しさが -貴方に-誰かに-なにかに捧ぐ赦しさえ 描けないままだ 比喩えば忘れたほうが単純な あなたがあたしの亡霊だとしても 夏の陰が 何度と重なって 涙も忘れるほど わかんないままだ 過ちのように消えたまま 渇いてくように想うまま 褪せない貴方に触れている ただ、それだけだ 貴方のことのすべてを忘れたら そんな絵空事は要らないから あたしがいつか亡霊になるまで 貴方を救えないまま 朝を待つよ

「忘却、逃げ水、三回忌」

記憶と追想

朝が明ける 靄とともに きみを忘れては、描いているのだ 昨日すら 朧げなままに きみがただ夜の奥に残ってる だから、きみの声すら遠いんだ 記憶すらも褪せていくから そうなる前に 忘れたいまま きみを想う だって朝が来たら消えるから 刹那に浮かんだきみの声ごと 朽ちゆく前に いま──  足の跡をたどるままに きみの捨てたものを拾うだけだ 声すらも忘れてくのにね いまも未だきみのことに縋っている だからきみの全部が視えなくなる 胸の記憶はくすむのに、未だ 嘘を吐いてでも  もう、ほんとはね 全部ぜんぶ 思い出せやしないんだ くすんで酷く歪んで、 もどし方もわからないや さよならの色をのこして 息を咽んでいる 溢したものをあきらめられずに 書きかけたまま きみのことの全部を忘れても 言葉一つで遺せるよう ひどく褪せゆくこの胸の中、いつかのきみを 詩になぞっている